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記事更新日2009/4/1
 2−1 「鍛鉄薔薇 製作の実際」 第1回目

以前、ヨーロッパでは、道具鍛冶に限らず、建築に結びつき、室内外の装飾物として発達した経緯があるということを書いたと思います。
例えば、門扉はただの格子にとどまらず、建築様式に合わせ、具象、抽象の模様に飾られていきました。今も昔も鍛冶職人は、様々な要求に答えて、様々な制作方法を編み出してきました。
今回から数回に渡りご紹介する「バラ」などはその一例といえると思います。
動植物は、モティーフとしてよくでてきます。
バラもよく好まれるモティーフの一つです。
現代では、電気溶接、ガス溶接などを使い花びらを次々と溶接していけば、簡単に製作することができます。ですが今回から数回にかけて、古い技法で製作する方法を解説したいと思います。
この製作過程の解説から、ヨーロッパ鍛冶職人の技法的な特性と伝統技法にある先人たちの知恵に触れることで、興味を持っていただければと、思います。

写真:右の円柱状の塊から、バラを製作しました。

記事更新日2009/5/2
 2−2 「鍛鉄薔薇 第一工程」 第2回目
 
 写真1: アンビルの上で            写真2:鍛造機(エアーハンマー)にて

材料は握りこぶしよりすこし大きいくらいの鉄のムク材であればよいのだが、
今回は工房の廃材から、32mm 丸棒を切り出して使うことにする。
コークス炉で赤めて、鍛造していく。

ここで、大きく鍛造加工する場合、向鎚(合槌)を打ってもらう、・・・・
のですが、写真2:今回は鍛造機(エアーハンマ)を使います。早くも文明の利器の登場です(笑)
写真1:アンビルの上で形を整えて、
写真3:第一工程終了

鍛造機(エアーハンマ): Luft Hammer
中にエアーコンプレッサ内臓で、空気の力でピストンを動かす。
プレス機と違い、スピードがあり打撃して加工していく。他にエアー式ではなく、バネの反動を利用するバネハンマなどもあります。鍛冶屋的にはかなりハイテクな機器、はじめてみたとき感心した。しかし、中世にこのようなものがまったくなかったというわけではない。

水車ハンマ: Wasser kraft Hammer
水力を利用して、ハンマーを動かす。
以前、筆者もドイツで体験したことがあったが、原始的な機構だがちゃんと機能し、感心したものだ。写真の大きなハンマーを水車の力を利用して待ち上げ、自重で落下する。いつの時代のものかはわからないが、少なくとも産業革命以前のものだろう・・・今でこそ、鍛冶屋はローテクの手仕事が、魅力の一つでもあるが、この技術が最先端のハイテクだった時代もあったんだろうと考えると、なんだか感慨深いものがある。

完成までまだ道のりはありますね〜(連載も・・・)


作業の具体的な説明に入る前に、工房では鍛造の加熱に、コークス炉を使っています。(コークス=石炭のような物)炉で熱した鉄をアンビル(金床・・叩く金属製の台)のうえで鍛造(鍛冶)します。

熱した鉄は数分(鉄の大きさにもよる)で冷めてしまうので、再び炉に入れて熱する(赤める)この作業を何度も繰り返し成形していく。これを、熱間加工という。







写真3: 第一工程 終了(まだ熱いです)


水車ハンマ: Wasser kraft Hammer  2001ドイツ

記事更新日2009/6/15
 2−3 「鍛鉄薔薇 第二工程」 第3回目
 
 写真1: ハチノスに挿して        写真2: 大ハンマーで据えこんでいく


もう少し先端が寸胴の塊でほしいので、スエコムことにします。前回同様、コークス炉で加熱しします。加熱した工作物を「ハチノス」に挿して、(写真1) 大ハンマーで、据えこんでいきます。(写真2)据えこみには、ある程度大きな力を用することもあり、今回は温度を高めに加熱し、より加工をしやすくします。

(写真3) アンビル(金床)の上で整えます。
第二工程 終了
前回、工程終了と比べますと、
先端が据えこまれたことがわかると思います。
さてさて、この大ハンマーの打ち方(向こう鎚)ですが、ヨーロッパと日本ではずいぶん違います。その理由は、金床の高さに関係があるようです。日本式では金床が床に置かれ、「先手」は座り、「向こう鎚」は立って打ちますが、洋式は、台の上に金床を乗せ 「先手」も、「向こう鎚」も立って作業します。

このためハンマーの形状や、たたき方そのものに違いが見られます。また、私見ですがおそらく下半身の強い日本人と、上半身の屈強な西洋人の体格の違いから作業に適した姿勢、使う筋肉等からの影響なども考えられるかもしれません。

また以前、鍛造会議(シンポジュウム)でアフリカ人の方々と作業することがありましたが、とても興味深かったのを覚えています。西洋式とも日本式とも違う、向こう鎚の印象でした。作業の形態としては日本のように先手が座り、向こう鎚が立って作業するのですが、大きく振りかぶってバネのように伸びて振りかぶって打ち下ろすのは、正確性はともかくパワーがあるな、と言う印象を持ちました。向こう鎚ひとつとっても、お国柄 出るのだな と思ったことを思い出します。

ちなみに自分のたたき方はといいますと、・・・・   我流です ^^
しかも 向こう鎚もなにも先手が大ハンマー振るってるし・・・(笑)
  
   写真3 アンビルの上で整えて 第二工程終了

記事更新日2009/7/2
 2−4 「鍛鉄薔薇 第三工程」 第4回目

写真1:加熱した鉄を鏨(タガネ)で割いていきます。

写真2:第三工程終了

前回からの続き
写真1のように鏨(タガネ)を使って、三段に割いていきます。
(花びらの数の多少によっては二段でも四段でも良いです)
先に進むと、この意味がわかってきます^^;
一度の加熱では、無理なのでここでも、コークス炉で過熱処理と、鏨(タガネ)の割き作業を交互に繰り返していきます。
このあたりの工程から、薔薇製作の面白いところですが、同時に最終的な仕上がりに影響が出てくるので、徐々に品物に神経を使うところでもあります。写真2 の状態でこの工程は終了です。
鏨(タガネ):
今回使用したタガネは切鏨ですので、先端が鋭角な形をしてます。(木工道具の鑿のような感じ)材質は炭素鋼や、合金鋼などで、焼入れして硬くなる材料から自作したりします。大体、道具は自作したり、市販のものを買ってきても、加工しなおしたりして作業にあったものに作り変えてつかっています。


記事更新日2009/8/15
 2−5 「鍛鉄薔薇 第四工程」 第5回目
  
写真1:熱した工作物をハチノスに       写真2:大ハンマーでつぶす         写真3:厚みに気を配りながら延ばしていく

前回からの続き
鏨(タガネ)により切れ込みをいれ、三段になった 部材を、再び加熱し、ハチノスに差し込み、再び大ハンマーでつぶしていく。(写真1、2)
この作業自体は、前回のスエコミ作業と変わらないが、今回はより注意して作業していく。

主な注意点は、まず工作物の軸がずれないようにすえこんでいかなくてはならない。
簡単なようだが、実際は大ハンマーの軌道は円弧を描くので、どうしても工作物が手前に引かれやすい。
又、打撃の力が弱いと打撃面ばかり延びて、底の段(ハチノス側)が延びない。
この底の段は最終的にバラの外輪となる。(外輪の花びらが小さいと薔薇っぽくないです) ですからほかの上二段より小さくならないように。

厚みに気を配り、伸ばしていき 第四工程終了です。(写真:4)写真からも薄い円盤状のものが三枚重なっていることがわかると思います。
この部分が、薔薇の花びらになっていきます。この工程は薔薇制作の中で、技法的な妙技でもあり一番重要な工程だと思います。
 写真4:第四工程終了

記事更新日2009/9/16
 2−6 「鍛鉄薔薇 第五工程」 第6回目


写真1:キリタガネで花びらを切り出していく

また、より「薔薇」というものを意識して、どうしたら、薔薇にみえるだろうか?薔薇とは、なぞや? ・・・完成のイメージを膨らませていくという楽しさもでてきます。

写真2:一段目から、5枚の花弁を切り出し、プロペラ状になったところで、第五工程終了です
前回の工程まで大ハンマーでつぶして薄いせんべい状のものが、3段重なったようなものになりました。

これから薔薇の花びらを切り出していきます。
刃の薄い切鏨(キリタガネ)で、切っていきます(写真1)
このとき、切り込む刃の角度や熱を加えたり、工作物の状態に気を配りながら作業を進めていきます。
作業部位が薄いため、気を使う作業です。

切進んでいくうちに、花ビラの厚みやその他の状態が次第にわかります。
極端に薄いところが出てきたり、トラブルが露呈しやすい場面でもあり、今までの工程作業がこなせたかがわかる瞬間でもあり、緊張します。。

本工程から、それまでの大胆に力強く鍛造していく作業から、より繊細に細工していく作業工程へと変化していきます。




 
 写真2:5枚のプロペラ状にて第五工程終了


記事更新日2009/10/19
 2−7 「鍛鉄薔薇 第六工程」 第7回目
  
写真1、2:ハンマー、タガネや ニッパーによる成形                写真3:1段目の成形が終わり 第六工程を終わる

前回、プロペラ状のものから、熱間加工によりハンマー、タガネや ニッパーによる成形していく。
薄くなっているので、無理に力を加えると割れてしまうので、注意しながら成形していく。
写真3:第六工程終了。ここで、第1段目が終わるのだが、この後2段あるので、1段目は花びらが閉じた蕾(つぼみ)のような感じで作っていくと丁度よい

記事更新日2009/11/17
 2−8 「鍛鉄薔薇 第七工程」 第8回目
  
 写真1:切タガネにより2段目の切り出しや    写真2:アンビルの上で成型         写真3:ガスによる加熱

1段目の花びら5枚を成型し終わりましたら、2段目を切タガネで切り出します。(写真1)
花びらの薄い張りのある印象を出すために1枚づつ金床の上で均す。(写真2)
このときアンビル(西洋金床)の角などを使うと成型しやすい。
注意する点は、各部位にはかなり薄いところもあるので、無理に力がかからないように心がけ、熱のかけ方などに気を配る。
均すときは、たたく部材の裏面を金床にしっかり当てて座りを確かめながら作業をする。
ここまできて、割れなどの失敗はそれまでの作業を台無しにしてしまう。

   
 写真4:花びらを成型していく                 写真5:切り出して「ガク」の部分を表現する

1段目、2段目の花びら成型に続き、3段目も同様に成型します。(花びら計15枚)
つづいて、「ガク」の部分を切り出す。 「茎」の部分を鍛造して細くしていく。

記事更新日2010/1/7
2−9 「鍛鉄薔薇 完成」 第9回目
最後に、あくまでも鉄鍛造による表現ですので、アレンジ、デフォルメ等を加え、
花びら等を、バラの印象に近づけるために調整し完成です。

 
  写真1:バラ3輪                           写真2:「鍛造バラ」左と「その材料の円柱」右

まとめ:
この薔薇の製作に関して、この作り方が正解というわけではなく、ほかにもいろいろな製作方法があります。
例えば、花びらを板材で作り、リベット止めという方法も見たことがありますし、
現在では、コストパフォーマンスから電気溶接という技法を併用する方法が、ほとんどの工房では一般的です。

今回、月1回1工程で10ヶ月にわたり連載してきた「鍛鉄薔薇 製作の実際」ですが、実際の製作作業は、1日くらいです。
途中、バラ製作から脱線してその他の鍛造話もしてしまいましたが、それはご愛嬌ということで(笑)

最後に、この薔薇製作方法は私自身が考え出したものではありません。
これは、ヨーロッパの大昔の鍛冶職人がその要求に迫られて、編み出した方法です。
どの工程をとっても、工夫されていて、鍛造に対する適正な技術力が要求されます。
また、この技法が成り立つ背景には、ヨーロッパと日本の鍛造文化の違いが見て取れます。
この掲載を通して、ヨーロッパの装飾鍛造技術と、当工房を理解するよい題材になればいいなと思います。

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